むじゃき

なんでもかんでもアウトプット 一日一新 抽象化する思考

「月が醜いですね」

▼前説
 書き出し.me よりお題
 「月が醜いですね」
 
 #100日チャレンジ ショートショート 2/100
 

 

▼本文
「月が醜いですね」
 隣にちょこんと座る彼女にそう聞いた。
 彼女は、目を潜めて月を一度、そして、もう一度見る。
「そう?」彼女の大きな目が隠れるくらい目を細めて「今日は、雲ひとつない夜空で、月が見やすいよ」
「ふっ」
 どうしても笑いこらえられなかった。
「なによー どうしたの?」彼女は僕の顔を覗きこむ。彼女の綺麗な髪が床にふわっと広がった。
「あ、いや、」彼女の頭をなでながら「君は本当に天然なんだね」
「え? なによそれー 馬鹿にしてるの?」
 ぽかぽかと音が鳴りそうに僕を叩く。
「馬鹿にしてないよ。感動してるのさ」
「感動? どこにさー」白い手を顎にやりあれやこれやと考えるのは、さながら探偵のよう。「私の溢れ出る偉大さとか?」
「えっ、偉大?」
「それとも、私の美しすぎる美貌とかかしら!」柔らかそうな頬を持ち上げながら彼女は楽しそうにいう。
「ふっ」
「あー また笑ったー」彼女は軽く僕の肩を叩いた。
「ごめん、ごめん」両手を上げて降参ポーズをとる。
 ぷーと金魚のように頬を膨らませている彼女。
 本当に感動するくらい表情豊かだ。
「あ、でも」長いまつげをばたつかせながら彼女はささやく。「笑ってる顔のほうがうちは好きだよー」
 きょとんとした。それはあまりにも突然だったので、私は対応できなかった。
「あはは、面くらってるー」
 僕は耳が赤くなるのを感じた。
 
 ・・・
 
「どうでしたか? 彼女は」
 白い扉を閉めると、白衣を着た女性にそう声をかけられた。
 僕は彼女からくたびれた白衣を受けとり、一言返した。
「完璧だな」
 賢そうに白衣を着た女性は微笑む。
 長い廊下の先の扉に目をやり、僕らは歩き出す。
「実に恋をしそうになるよ」
「教授がそこまでおっしゃるのでしたら、実践投入できますね」
「ああ、まさか禁断のクローン技術がこう現代に生かされるとは、世も末だな」僕はくたびれた白衣のポケットから煙草を取り出した。
「理想的な女性を作る。男が好きな要素をすべてもった理想的な女性」白衣を着た女性は手に持っていたカルテを見ながら「そこに自分だけを好きなってくれるように性格・記憶を書き込む」
「そんな女性が目の前にしたら、どんな男性だって黙っていないだろう」ゆっくりと煙草をふかしながら「これで少子化の解決、か」
「はい。おそらく確実性の高い方法かと」白衣を着た女性はカルテをめくる。「成功率は高いです、数字上は」
「お偉いさんの考えることはよくわからん」もう片方のポケットに入っていた携帯灰皿で煙草を消す。ポイ捨ては今や刑務所行きの重罪である。
「このあと、あと3人臨床試験があります」
「次は?」
「男性です。筋肉質でダンスのうまい人です」
「うわ・・・男性か。気が滅入るな」頭の後ろに両手をやり「君がやってくれよ」
「ダメです。知っているじゃないですか。私、男性苦手なんですから」
「私だって男性だぞ?」
「教授は・・・大丈夫です」
「なんだよ、それ、まったく」
 ため息をつくと、ちょうど突き当りの扉の前だった。
「頑張りますか」
「頑張りましょう」
 気乗りはしなかったが、僕は白い扉を開けた。