「もっこりしてる・・・」
▼前説
書き出し.me よりお題
「もっこりしてる・・・」
書き出し.me よりお題
「もっこりしてる・・・」
#100日チャレンジ ショートショート 5/100
▼本文
「もっこりしてる・・・」
今まで気が付かなかったのが不思議なくらい壁が膨らんでいる。
手のひらぐらいのサイズでその部分だけ楕円に膨らんでいる。
ちょうどそこに壁掛け用の絵画を購入してきたばかりだというのに。
指先で少し触れてみる。
手触りは壁そのもの。ざらざらとしている。
ぐっと押してみた。
押した分だけ凹んだ。押せばどこまでも凹みそうな、指を飲み込みそうなまでに柔らかい。
その日は絵画を取り付けるのを諦めて、悪い夢かもしれないと早めに寝た。
翌朝、起きてコーヒーを入れ、新聞に目を落とす前にまたあのもっこりした壁を見た。
「なんか・・・昨日より膨らんでいる?」
確信は持てないが、膨らみが少し大きくなっているような気がした。
その時は、そんなことより、これが夢でなかったことに落胆した。
会社の出社時間もあったので、帰ってきてからまた見てみようと思った。
突然の問い合わせがあって、帰りが終電になってしまった。
ビールを買い、ハイヒールを脱ぎ捨て、バックを放り投げる。
通りで買った缶チューハイをあける。まだ缶ビールを飲めるほどお酒は強くない。
半分くらいまで飲んで、はっと思い出す。
「あの壁・・・」
あの壁に、恐る恐る目をやる。
やはりもっこりしている。しかもやはり大きくなっている。
手のひらに収まるくらいのサイズだったが、今では丸い掛け時計と同じ大きさになっている。
「気味が悪いなぁ」
少しお酒も入ってきたので、もっこりした壁をもっと触ってみることにした。
叩く、跳ね返る弾力。
揉む、掴んだままに形が変わる。
引っ張る、伸びる伸びる。
引っ張り続けるだけ引っ張ると伸びていく。壁から抜けるのではないかと思うほどに伸びる。
ちょっと怖くなって手を離した。
すると、伸びていたそれは勢いよく壁に戻っていった。元の形を越えて壁に近づき、そして、壁を越えた。
「えっ」
壁を越えて、そのもっこりしていた壁は今や凹んでいる。
「な、なんで」
急いでその凹んだ壁を触る。
「か、固い」
その凹んだ壁は先ほどのもっこりした壁とは違い、本当の壁よりも固い何かでできているようだった。
少し残念に思った。あの柔らかさはいやらしさのない気持ちのいいものだったからだ。
まあ、いい。
これで絵画がかけられる。明日朝にかけるとしよう。
翌朝、休みだったため、気が緩んでいたのか、私はソファで目を覚ました。
ぐぐっと背伸びをして大きく欠伸をした。
「はっ?」
壁にはもっこりした膨らみが2つあった。それも壁の両端にである。
これは・・・また引っ張ればいいのだろうか。