読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

むじゃき

なんでもかんでもアウトプット 一日一新 抽象化する思考

「好きです。付き合ってください」

▼前説
 書き出し.me よりお題
 「好きです。付き合ってください」

 #100日チャレンジ ショートショート 3/100
 

 

▼本文
「好きです。付き合ってください」
「全然だめね」仁王立ちをしている映画子(えがこ)が悪意を吐く。「まるでわからないわ」
 小説子(しょせこ)は後ろの映画子をちらっと見る。
 稽古場には小説子と映画子、そしてちょっと離れたところに音楽子(おがこ)がいる。
 来週から大きな舞台が始まる。それは3人にとってとても重要な舞台。今後の女優人生を左右するほどに。
「もう一度やってごらんなさい」映画子があごで促す。
 小説子は気持ちをリセットするように長く深呼吸をする。そして、
「好きです。付き合ってください」
「さっきと一緒。まるでわからない」間髪を入れずに映画子が愚痴を吐く。「あのね。抑揚がないの」
 映画子は小説子に向かって歩きながらさらに愚痴を吐く。
「わかる? あなたの発言には声の大きさがないの。それに声の高さも」
 小説子はぐっとこらえるように黙っている。
「あなたの発言はどうしても無機質な感じがするわ」
「そうかしら」遠くで音楽子が通る声でいう。「私は小説子のこと嫌いじゃないわ」
「もっと感情を入れて」映画子はくるっと回りながら、「こう斬新な動きをつけたらどうかしら?」
 小説子はまだ黙っている。
「なんでこんな子と一緒に舞台なんてやらなきゃいけないのかしら」映画子は嫌そうにいう。「はっきりしないあなた、嫌いだわ」
「いいじゃないの」音楽子は小説子の横に立って頭をなでた。「想像力をかきたてられるわ」
「わかりづらいのは嫌いなのよね」
「私がもっと小説子のいいところを引き出せるわ」
「いいところですって? そんなの」映画子は小説子をぎりっとにらみつける。「どこにあるっていうの」
 小説子は怯えるように音楽子の後ろに隠れた。
「もういいわ」映画子は長い髪をかきあげて、「私は私で勝手にやるわ」
 早足で稽古場をあとにする映画子。
 小説子はあっ、と小さく声を発して、映画子を呼び止めてみるも、すでに映画子は扉を開け、外に出ていた。
「大丈夫」音楽子はそっと小説子を抱きしめた。「あなたの良さはいろんな人が知ってるわ。自信を持って」
 小説子はこくりとうなずいた。