むじゃき

なんでもかんでもアウトプット 一日一新 抽象化する思考

「待って、って言ったのに」

▼前説
書き出し.me よりお題
「待って、って言ったのに」
 
#100日チャレンジ ショートショート 4/100
 

 

▼本文
「待って、って言ったのに」
「待ってたらバスに乗り遅れる」男子学生は隣にいる幼馴染の女子学生にいう。
「バスなんて何本でも来るじゃない」
「どのバスでもいいってわけじゃないだろ」
「どのバスだって学校には着くわ」
「それじゃあ、間に合わないだろ」
「間に合ってるじゃない」
「どこがだ」
「今、わたし、学校にいるわ」女子学生は偉そうに背すじを伸ばした。「ほら、学校に間に合ってるじゃない」
「・・・まったく相変わらずだな」
「なによ、久しぶりに会ってその言いぐさ? わたし、変わったわよ」
「ほう、そうだな」男子学生は女子学生を少し引いて見た。「背が小さくなったかな」
「あんたが大きくなったんじゃない」
「そうだな、背、抜いちゃまったな」男子学生は無邪気に笑った。
「もう」女子学生はムッとしながら、「あんたがいなくなって、何年経ったと思ってるの」
「3年くらいか?」
「5年よ、5年。5年も経てばいろいろ変わるわ」
「そうか」男子学生は窓の外を見る。「5年か」
「あの時もあんたは待ってくれなかったわ」
「そうだな」
「わたしがどれだけ頼んでも待ってくれなかったわ」
「親の都合でどうしようもなかったんだ」
「そんなの言い訳よ」
「ごめん」
「謝るくらいなら、わたしの涙を返しなさいよ」
「涙?」
「あの時、わたしは泣き疲れて眠っちゃって・・・起きてまた泣くくらいに・・・」
 女子学生は睨むように男子学生を見る。
「なんで戻ってきたのよ」
「なんでって、・・・親の都合さ」
「戻ってくるんなら連絡入れなさいよ」
「連絡先忘れちゃってな」
「なによ、それ」
「戻ってきたんだし、気にすんなよ」
「気にするわよっ」女子学生は声を荒げる。「なんで、ぜんぜんわたしのいうこと聞いてくれないのよっ」
 突然、ガラっと教室の扉が開いた。
「おい、おまえら! うるさいぞ! 遅刻したくせに。黙ってろ!」
 男子学生と女子学生はきゅっと口を結んだ。
 教室の扉が閉まると、男子学生が呟いた。
「待つのは苦手なんだよ」
 女子学生は男子学生の顔をはっと見る。
 恥ずかしそうに男子学生は言葉を続けた。
「迎えに行く方が性に合ってる」