「違う! 俺じゃない!」
▼前説
書き出し.me よりお題
▼書き出し(試し書き)
※この中から1つを選んで、本文を書いています。
「違う! 俺じゃない!」
犯人は他にいる。なんで俺がこんな目に合わなければならないんだ。
どうして俺の言うことを聞いてくれないんだ。
「違う! 俺じゃない!」
銃を構えたまま、俺は奴に照準を合わせる。
「銃を下ろせ!」奴は手を上げたまま答える。
「違う! 俺じゃない!」
鏡に映る顔は毎朝見ている俺の顔ではなかった。
濡れた両手で顔の輪郭を確かめる。
「違う! 俺じゃない!」
鏡に映る顔は毎朝見ている俺の顔ではなかった。
濡れた両手で顔の輪郭を確かめる。
全体的に細長かった顔は、小顔と呼ぶにふさわしい形になっていた。
切れ長の目はくぼみ、適度な掘りから飛び出しそうなくらいに長い睫毛。
鼻は高く通っていて、唇は薄目。
眼鏡をかけなければ何も見えなかったくらいに視力が弱かったのに。
「いったい、どうなってるんだ」
頬を両手でずりさげてみる。程よい弾力が心地いい。
周りを見渡す。その風景はどう見ても俺の部屋だった。
飲みかけの缶ビールがいくつか転がり、脱ぎ捨てられたスーツがベッドの上に散らばっている。
そうだ。昨日は飲み会から帰ってきて、それから・・・
「缶ビールを買って・・・」頭を振ってみるもののその先を思い出せない。
たぶん、悪い夢だ、寝なおそう。
洗面所からベッドに向かってふらふらと歩く。
何歩目かでゴン、と重い何かに躓いた。
まったく予想もしていなかったので、そのまま前のめりに倒れこんだ。
空缶がいくつか中に舞った。
「っつ! なんだよ」腕の力で起き上がり、「まったく」振り返った。
そこには、俺の顔があった。
いや、ホラーやスプラッタのように顔だけがあったのではなく、俺の顔をした人形が横たわっていた。
胸の上で手を組み、まるで深く眠っているかのように、そこにいた。
今、俺が着ている寝間着と同じものを着て。
「なんだこれ」俺の顔を俺が覗き込みながら、「気味が悪いな」
今にも起きそうで、それでいていつまでも寝ていそうな。
生きているようで、まるで死んでいるような。
人間であるかのようで、だけど人形のような。
「いったい、こいつは・・・」
朝起きて顔洗っただけでこの有様。なんとも人に説明しづらい状況である。
(ピーンポーン)
「え」
(ピーンポーン)
聞き間違いではなかった。
そういえば、配達が届くんだっけか。
「ん・・・配達か・・・」目の前にある俺の顔がぐにゃぐにゃと苦しんでいるかのようにゆがんだ。
「え」
おいおい。ちょっと待って。
(ピーンポーン)
「はいはい」俺の顔が目を開けた。「・・・え」
「え」
(ピーンポーン)
太陽はまだ上がり始めたばかりだ。